年次有給休暇について

眼鏡とパソコン
第8回目のコラムでは久しぶりにAさんとBさんが登場です。今回は果たしてどんな労働問題が出てくるのでしょうか。AさんとBさんのやりとりを見てみましょう。

B
おう、A。そろそろ年度末になってきたな。仕事も繁忙期を過ぎたし、どこか旅行にでも行ったらどうだ。

A
B先輩。お疲れ様です。大きなプロジェクトもうまくまとまりそうですし、年次有給休暇を使って海外旅行にでも行きたいですね。たしか、あと5日間程度は残っていたと思います。

B
おいおい、A。
お前、今、入社2年目だったよな。去年は有給休暇を丸々使ってないだろ。15日以上は残ってるんじゃないか。

A
何言っているんですか、先輩。有給は、最初半年に与えられて、その後は1年経過するごとに与えられるものでしょ。去年の分は残ってないはずです。

B
馬鹿だなぁ、お前。有給は2年間で時効にかかるから、全く使ってないなら、2年間は有効なんだぞ。
Aの場合は、去年、半年間で全く使ってないから10日間の有給休暇を取得し、その後、更に1年経過したら11日間与えられて、全部で21日間あるはずだぞ。

A
そうなんですか。全然知らなかったです。じゃあ僕の場合は、最近6日間の有給を使用したので、残り15日間も残っているんですね。参考になりました。ありがとうございます。

有給休暇

みなさん、「有給休暇」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

「有給休暇」とは、正式な名称を「年次有給休暇」といい、その制度の趣旨は、労働者の健康で文化的な生活の実現に資するために、労働者に対し、休日のほかに毎年一定日数の休暇を有給で保障する(※1)というものです。

年次有給休暇の権利の中身は、一般的に、労働基準法上の要件(1.6ヶ月間の継続勤務2.全労働日の8割以上出勤)が充足されることによって法律上当然に発生するとされる「年休権」と、発生した年休を取得する時季を指定する「時季指定権」から成るとされています。

では、何年間お勤めになると、何日間の有給休暇を取得できるのかというと、これも労働基準法で定められており、一般の労働者の場合の付与日数によると、雇い入れの日から起算した勤続期間が6ヶ月の場合、付与される休暇の日数は、10日間です。これが、1年6月になると、11日間与えられ、2年6月で12日間、3年6月で14日間、4年6月で16日間、5年6月で18日間、6年6月で20日間、それ以上は頭打ちとなります。つまり、7年6月以上を勤務すれば、法律上は最大で40日間の有給休暇を取得することができるのです。

有給休暇は法律上認められた権利です。ですから、例えば会社によっては、「うちには有給の制度なんて無いよ」と言われることもあるようですが、これは間違いです。仮に、何ら正当な理由無く、年次有給休暇の権利を侵害すると、労基法119条1号で、会社側に対して、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金という罰則が予定されています。

権利として認められているのですから、これを行使しないことはありません。

B
というわけだよ、A。有給休暇のことがわかったかな。

A
B先輩、ありがとうございます。早速、残りの有給休暇日数15日間を全部使って、土曜日、日曜日、祝日と併せて、20日間程度を連続で仕事を休んで、海外旅行に行ってこようと思います。

B
おいおい、ちょっと待て、A。お前が15日間も仕事休んだら、誰が例のプロジェクトを進めるんだよ。たしかに、有給休暇は権利として認められているけど、会社側に正当な理由があれば、取得時期は変更を求めることができるんだぞ。これは労基法39条5項で「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」とされているんだ。これは「時季変更権」というらしいぞ。

A
マジすか。じゃあ、僕は、15日間連続で有給休暇を取得できないのかな。

B
おいおい、いつも言ってるだろ。簡単に諦めるなって。たしかに、会社側には、時季変更権があるけど、要件として、「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたる場合が必要なんだ。

A
どういうときにあたるんですか。

さて、皆さん、さきほど、有給休暇は権利として認められているとご説明しました。

ですが、たとえば、会社に勤めている者が一斉に有給休暇を取得すれば、その会社はどうなるでしょうか。働く人が誰もいなくなって、会社としてはしばらくの間、立ち行かなくなるかもしれません。

そこで、法は、取得時期を変更できるとして、時季変更権を認めています。どのような場合に、「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたるかですが、事業所の規模、業務内容、当該労働者の担当する職務の内容、性質、職務の繁閑、代替要員確保の難易、時季を同じくして有給休暇を指定している他の労働者の員数、休暇取得に関するこれまでの慣行等が判断要素としてあげられているところです(※2)。

B
というわけだから、Aが長期になって有給休暇を取得するとなると、例のプロジェクトを理解してる者がいなくて、会社も困るから、時季変更権を行使されるかもしれないぞ。

A
先輩、大丈夫ですよ。例のプロジェクトは、僕の他に、Cさんがいるじゃないですか。実は、Cさんが裏のプロジェクトリーダーで、詳細に把握してるんです。だから、さっき先輩が教えてくれた、判断要素の「代替要員確保の難易」からして、今回は会社も時季変更権を行使できないはずです。さっき先輩も言ったじゃないですか、「簡単に諦めるなって」。

B
おっと、そうだったな。じゃあ、大丈夫かもしれないな。すまんすまん。もし会社から時季変更権を行使されたら、この判例を知っておくと有用かもしれないぞ。会社側が、代わりの者を用意できるのに、そういった対応をしないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないとした判例なんだ。あと、年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところとされているから、Aが海外旅行で変なことをしようと計画していても、それは時季変更権行使の理由とはならないぞ。

A
先輩、僕、海外で変なことなんてしないですよ。

最後に、以下の判例(最高裁昭和62年7月10日第二小法廷判決民集41巻5号1229頁(弘前電報電話局事件))を紹介しておきましょう。これは、時季変更権行使の判断要素である「代替要員確保の難易」について判断した判例で、利用目的についても判示しています。すなわち、判例は、「労基法三九条三項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断に当たって、代替勤務者配置の難易は、判断の一要素となるというべきであるが、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であることは明らかである。

従って、そのような事業場において、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である

そして、年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところである(前記各最高裁判決参照)から、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく、許されないものであり、右時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならない。」としました。

下線を引いた部分を読んでみてください。これらの判示内容からすると、今回のAさんについても、会社側は時季変更権を行使できないと考えられます。よかったですね。

もし、このコラムを読んでいる皆さんの中に、会社が有給休暇を認めてくれないといった方がいらっしゃいましたら、いつでもご相談ください。

当所では初回相談料を無料とさせていただいておりますので、いつでも、お気軽にご相談いただければと思います。

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