残業代請求の計算の基礎となる賃金(その1)
残業代を請求する際は、割増賃金の算定が必要です。割増賃金の算定については、以前コラムでご説明したとおり、
1 時間単価
2 残業した時間 を計算し、
3 割増率を確認 する必要があります。
それでは、残業代を請求する基礎となる「時間単価」とはどのように計算するのでしょうか。
時間単価は以下の計算式により算出することになっています。
時間単価=基礎賃金÷月平均所定労働時間
このように見ると、残業代を算定する基礎となる時間単価は、簡単に算出できそうですが、実はここで色々と問題が生じることになり、実際の残業代請求訴訟の現場では、多くの争いが生じます。
今回はその点について詳しくご紹介いたします。
1 基礎賃金から除外される除外賃金
残業代の算定基礎額である基礎賃金から除外される賃金を、一般に除外賃金といいます。除外賃金は、労働基準法37条5項が、「家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金」であると規定しており、これを受けた労働基準法施行規則21条が、「別居手当」、「子女教育手当」、「住宅手当」、「臨時に支払われた賃金」「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」を規定しています。
そして、これらの除外賃金の規定は、除外賃金とするものを限定列挙した規定とするのが裁判実務であり、また、その名称に関わらず、実質的に判断されるべきものとされています。
したがって、皆様が支給されている給料が、法令に規定されている名称で支給されていても、そもそも除外賃金としての性質を有していなければ、基礎賃金に含まれることになります。
例えば、給与明細に「通勤手当」として一定の金額が支給されていたとしても、その性質によっては、除外賃金にはあたらず、基礎賃金として計算される可能性があるのです。この点が、複雑なところです。
それでは、以下、具体的にどのような性質をもつ手当が基礎賃金に含まれるのか、どのような性質を持つ手当が除外賃金となるのかについて、詳しく見ていきましょう。
2 家族手当について
家族手当とは、扶養家族のある従業員に対し、扶養家族の人数を基準として計算し、支給するのが典型です。しかし、扶養家族のある従業員に対し支給されるものであっても、その家族の人数に関係なく一律に支給されているような手当は除外賃金とはいえず、基礎賃金に含まれることになります。
また、家族手当の名目であっても、独身者に支給しているような場合も、除外賃金とはいえず、基礎賃金に含まれることになります。
3 通勤手当について
通勤手当は、例えば定期代などの通勤の実費を填補したり、通勤距離に応じた手当を支給するのが典型です。したがいまして、通勤手当の名目で給与が支給されていても、定期代や通勤距離に関係なく支払われているものであれば、基礎賃金に含まれる可能性があります。
4 別居手当について
別居手当は、勤務の都合により、同一世帯の扶養家族と別居を余儀なくされた場合に、いわゆる二重生活による生活費の増加を考慮して支払われるものです。したがいまして、そのような事情がないにも関わらず、別居手当として支給されている場合は、基礎賃金に含まれる可能性があります。
5 子女教育手当について
子女教育手当は、被扶養者である子女の学校教育費の補助として支給されるものが典型です。したがいまして、従業員に子供がいるかいないかに関わらず、一律に子女教育手当という名目で支払われていても、それは除外賃金には当たらず、基礎賃金に含まれると主張することが可能です。
以上のように、残業代を計算するに当たっては、それぞれ依頼者ごとに様々な事情があり、それを分析する必要がありますので、詳しくは弁護士に相談して、正確な残業代計算を行って交渉や裁判手続きを進める必要があります。
次回は、「住宅手当」、「臨時に支払われた賃金」、「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」について解説を行いたいと思います。