不当解雇を争う場合の雇用保険制度の利用について

1 不当解雇と失業保険

 不当解雇とは、客観的・合理的な理由もないのに、会社から一方的に解雇されることをいいます。したがいまして、会社から、一方的に何の理由もなく、いきなり解雇された場合、その解雇は不当解雇となる可能性があります。そして、不当解雇は、解雇自体が不当である以上、無効です。解雇が無効なのですから、当然、解雇された側は、会社の従業員としての地位を失うことはありませんので、会社から賃金を支払ってもらえるはずです。しかし、仮に、不当解雇であることを主張しても、会社がそれを認めるまでは、会社から賃金を支給されることはないので、生活が困窮してしまいます。そのような場合、雇用保険制度(失業保険)を使って生活を維持したいところです。
 それは可能なのでしょうか。

2 雇用保険制度って何?

雇用保険制度とは、失業者に求職者給付を支給して求職活動を支援することを中核とし、労働者の生活・雇用の安定、就職の促進、労働者の職業の安定等の諸施策を実施する制度(雇用保険法1条)です。求職者給付の中心となるのは基本手当で、基本手当は、離職日直前6か月の平均賃金(日額)の45%から80%の額を一定期間支給されます(雇用保険法13条以下)。
基本手当は、受給資格が認められてから、7日間の待期期間(雇用保険法21条)があり、この間、基本手当は支給されません。また自己の都合で退職した等の場合、基本手当は、待期期間が満了した後3ヵ月間の給付制限があり、この間も給付を受けることができません(雇用保険法33条1項)。 
 

3 会社から不当解雇された場合は?

会社から不当解雇された場合、その解雇を争うとしても、解決までにはどうしても一定の期間を要します。その間、賃金が支払われないと、当面の生活に困ってしまいます。
雇用保険は、労働者が職を失った場合に次の仕事を見つける休職活動期間中の生活を保障する制度ですので、不当解雇された場合でも、当面の生活のため、基本手当の支給を受けたいところです。
しかし、不当解雇を争うということは、解雇は無効であり、職を失っていないと主張することになります。
他方、基本手当は、「被保険者(労働者)が失業した場合」に支給されるものなので(雇用保険法13条1項)、基本手当の受給手続を行うことは、自ら失業していること、つまり解雇が有効であることを認めていると理解されかねません。このため不当解雇を争う労働者は、基本手当を受給することが困難です。
そこで、この問題を解決するための制度が、基本手当の仮給付制度です。仮給付は、解雇を争っている場合に認められるもので、通常の手続に加えて解雇を争っていることを証明するものを提出する必要があります。仮給付は、解雇を争っている労働者に給付されるものですから、仮給付を受給しても、解雇を争う主張と何ら矛盾するところはありません。

4 まとめ

この仮給付にも7日間の待機期間や3ヵ月間の給付制限があります。
また、不当解雇の主張が認められた場合は、解雇は無効であり、失業していないことになりますので、それまで受給した仮給付は、全額、国に返還しなければなりません。
 ただ、不当解雇を争っていく上で、仮給付制度を利用していくことは有効であることは間違いありません。多くの皆様は、会社から一方的に解雇された場合に、そのような解雇でも有効であると考えて、泣き寝入りされていることが多いと思います。
 また、不当解雇について、弁護士に相談した結果、多額の未払残業代が発生していたことが判明したということもよくあることです。
 そのような事態に直面された場合は、まずは、弁護士にご相談ください。今回ご紹介した仮給付制度も含めて、具体的にアドバイスさせていただきます。

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